好きなものを愛でていれば、人生おわる

どう転んでも生きにくさにのまれない方法を模索中(詳細:ブログ記事【はじめに】)。ジャンル特化ではなく、模索結果に沿った作品を紹介。毎週木・日で更新予定。

ドラマ:『それでも、生きてゆく』(坂元裕二)

今回は、最も好きなドラマである『それでも、生きてゆく』(フジテレビ/2011年)について書きたい。
映画同様、私の中でドラマに求めている何かがあり、それが何か掴めていなかったのだが、このドラマがまさにそれであった。

1話目を観た時点で、このドラマの世界観にすっかり圧倒され、詳細を調べたところ、原作がないオリジナル脚本のドラマであることを知った。
ドラマの面白さって脚本家によるところが大きいのかなと思い始めていた当時の私は、この作品によって、すっかり脚本家・坂元裕二さんのファンとなる。
このドラマ以降、およそ1年に1度放送されていた坂元さん脚本のドラマは欠かさず観ており、放送されている3ヵ月間、そのドラマが大きな生きがいになっていた。

それでも、生きてゆく』はもちろんのこと、坂元さん脚本のドラマに共通する最大の魅力は「わかりやすさを求めない」ことだと思っている。
ここ数年の流行りなのか、ドラマが放送された翌日、そのあらすじをネタバレ込みで紹介するようなネット記事が増えた。坂元さんのドラマもそのような記事になることがあるけれど、それを読むと「間違っていないけど、そうなんだけど、大事なのはそこじゃないんだよ!」というもどかしい気持ちになる。
わかりやすさを求めないとは、ステレオタイプに頼らないということだと考えている。そして、ステレオタイプに頼らないとは、本当の人間を表現するということだと思っている。

 

それでも、生きてゆく』は、小学生の妹が殺害された被害者家族、殺害した男子中学生の加害者家族を中心に、その事件の15年後を描いた物語である。
はじめは被害者と加害者双方の心理を描いたドラマとして興味を持って観始めたのだが、「そういうドラマのイメージ」として持っていたものを、このドラマは第1話から軽々と飛び越えていった。

第1話では、妹を殺害された兄(深見洋貴:瑛太)に加害者の妹(遠山双葉:満島ひかり)が自分の正体を隠して会いに行く。加害者家族は15年間嫌がらせを受け続けており、その犯人が被害者家族なのではと考えたためだ。
釣り船屋をしている洋貴のところへ一人で出向いた双葉は、正体を隠している挙動不審さも相まってか、洋貴から「自殺志願者」ではと疑われてしまう。
お腹が空いたという双葉を自宅に招くが、自殺志願者と思い込んでいる双葉に接する洋貴もまた挙動不審である。
お互いぎこちない状態のまま、カップ焼きそばやおにぎりの話をしている二人を見て、とても良い意味で「何だこのドラマは」と衝撃を受けた。
ストーリーの筋とは全く関係のない、しかも飄々とした日常会話がドラマで繰り広げられている。しかも、こんなにも苦しくて辛いテーマのドラマの中で。
二人の会話の雰囲気はずっと変わることがなく、毎週繰り広げられる日常会話の積み重ねによって、二人の関係性や人となりが自然に伝わってくるのがとても心地よかった。話を進めるための、あるいは役割に応じた行動や会話に頼らず、人をじっくりと丁寧に伝えていく坂元さんのドラマは唯一無二であり、純文学的だなと思う。

そしてこのドラマは、全登場人物の演技があまりに凄い。
演技ではなく、もうそのままである。それぞれの人物がそのまま実在しているといわれても不思議に思わないぐらい、一人一人が画面の中でただ生きている。
上記で日常会話について書いたが、ストーリーの肝となるような会話も、もちろん最上級である。
日常を送りながらも、事件を忘れる瞬間の無い心の靄が、他に類を見ないぐらい真摯に、丁寧に、正直に表現されている。

ここまで感情移入できるドラマは、きっとこの先も出てこないと思えるぐらい、苦しみや辛さ、そしてそのような中からも生まれる決意や希望などを一緒に感じていった。

『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット/2018年)において、瑛太さんや風間俊介さんは、(このドラマの中で)今もう一度やれって言われたらできない演技をしているという趣旨の話をしている。
このドラマに出ていた俳優さんたちにとっても、通常を超えた何かがあったことを思うと、やはりとんでもない作品だったんだなと思う。

 

一話ずつ記事を書きたいぐらい思い入れがあり、伝えたいことだらけのドラマである。今回は、ネタバレをしたくないのと、映像そのものを見ればこの凄さは何も言わなくても伝わると考え、全体にまつわる思いだけを書かせて頂いた。

坂元さん脚本大好き人間としては、今回この作品を見返すことで、他の作品にも共通して出てくるものたちをたくさん発見できたのも面白かった。
動物に関する詳細な説明だったり、アニメ名言の引用だったり、ジュディマリの曲がでてきたり、食べ方へのこだわりだったり(唐揚げにレモンよろしく、チャーハンにソース!)。

『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット/2018年)にて、坂元さんは以下のように話している。

ドラマが終わったあとも「あの人たち、今もどこかで生きてるんじゃないだろうか」って思えるようなドラマをつくること。それが僕にとって一番大事にしていることで、それが連ドラのお客さんと交わしている約束なんだと思ってる。

私は、まさにこういう部分に強く魅かれたのだ。

ドラマでも他の媒体でも、坂元さんの作品をこれからも追い続けていきたい。