好きなものは、自分で決めるので

私にとっての良いものを表現してくれる作品を愛でるブログ。

漫画:『プリンセスメゾン』(池辺葵)

日常会話の中で、完結している何かの物語について話している時、「最後ってどうなった?」という質問が飛び交うことは多い。
この意味は、一般的なジャンル分けの話でいうと、
・女性向け作品の場合は「くっついたかどうか」
・男性向け作品の場合は「勝ったか負けたか」 である。
女性向け作品では、良い感じだったあの二人はどうなったか、三角関係でどっちと上手くいったか、男性向け作品では、バトルの頂点になれたかが注目される。

私は、メディア(偶発的でも意図的でも、広範囲に伝わった作品)が世の中の空気を作っていると考えている。女性は恋愛での成功を、男性は名誉や勝利を求めるというような価値観についても、数々の作品が影響しているはずだ。

私自身、途中まで見ていた作品について、最後がどうなったかは気になる。
やはり特に「くっついたかどうか」「勝ったか負けたか」が、気になる。
しかしこの感情が、自らの興味で湧き上がってきたものか、最終回のお約束を植え付けられているので枠におさまったかを気にしているのかは、分からない。

余談になるが、女性の友人と『NARUTO』について話していた際、真っ先に「ナルトが誰とくっついたか」を気にしていたが、それはそれで一貫していて面白いなと思った。もしかするとその子は『SLAMDUNK』でも、試合結果よりも、桜木の恋の行方について気になっていたのかもしれない。

バトル漫画のような作品を最近は読んでいないため、現在の傾向については分からないのだが、そういう作品において「最終的な勝ち負けを書かない」ようなものはあるのだろうか。
ジャンルとしての女性向け作品になると、こういうお約束を破るようなものはどんどん増えている印象である。

(ネタバレになってしまうので、作品名は隠しますが)
例えば、二人の魅力的な男性から好かれるという三角関係で人気となったドラマにおいて、「どちらも選ばない」という結論を提示した作品がある。
おそらくどちらにも魅力を感じていないわけではない。
「誰かに頼りながらではなく、未来を自分の力で切り開く」ためだ。

この最後を見届けた人の反応として、(この最後で良かったという反応も、もちろん多かったけれど)「どっちともくっつかなくてガッカリ」というものをSNSでいくつも見かけた。

この反応の内情はそれぞれだったが、以下のように分類できると思う。
・二人とも魅力的なのに選ばないなんてもったいない、私が付き合いたいぐらいだ
・どちらかを選ぶというカタルシスを味わえないなんて、もやもやする
・選ばないという最近のお約束を踏襲するのか

この「誰にも頼らず、一人で歩いていく」という選択肢が、お約束として認識されつつあることに驚く。
一方で「どちらかを選ぶのが当然」という価値観も根強く、まさに過渡期を迎えつつある状況の最中に、私たちはいるのかもしれない。

 

この「一人でも歩いていく」ということを一貫して書かれているのが、漫画家・池辺葵さんだ。
私は、池辺さんの描く人たちが心の底から大好きである。
生きることにとにかく真面目な人たちが、様々なことを感じ、考えながら毎日を送る姿が、とても美しい。
推しというよりは、すぐ近くで静かにさりげなく並走してもらっているような心強さを感じる。

今回紹介したい『プリンセスメゾン』(小学館/2015~2019年)もまさにそのような作品である。
この作品では、居酒屋で働きながら家を購入する20代の独身女性・沼ちゃんと、不動産会社に勤める人々を中心にしたストーリーとともに、多くの一人暮らし女性の生活する様子が、群像劇で描かれている。
とにかく全ページが魅力的で、どの絵も台詞も欠けてはもったいないぐらい洗練されている。
そのため本当に大枠となってしまうが、下記に2点だけまとめてみた。

 

一人で暮らす女性の描き方が良い

様々な境遇の一人暮らし女性が出てくるが、それぞれの一人暮らしの部屋には個性があり、インテリアなども素敵である。
そして一人暮らしの自由さと空しさの両方が、誇張なく、ただそのまま描かれている。部屋にいる時の家事を行う姿、夕暮れ時にくつろぐひと時や寝る直前の表情など、言葉を発さない状況も、ただそのまま表してくれる。
その彼女達の心境を想像したり、自分と重ね合わせながら読んだりすることで、作品をより深く味わえたような感覚になる。

中でも、第10話に出てくる台詞はきっと一生忘れない。
これこそ「私だけだと思ってた」という人を救うような台詞だと思う。
読み始めた時から好きな作品ではあるが、この話によって、唯一無二の特別な作品となった。

プリンセスメゾン』はもともとweb連載漫画であり、今でもいくつかの話は公式サイトから読めるようになっている。第10話も読めるので、気になる方はぜひ。

 https://yawaspi.com/princess/

 

沼ちゃんと不動産会社に勤める要さんの友情

家探しを手伝う要さんと家を探す沼ちゃんが、少しずつ友情を深めていく様子がとても良い。
お互いを思いやる台詞や気遣い、依存はしないけれど大事にしあっていると伝わる距離感が、本当に心地良かった。
沼ちゃんの言葉が少なくても達観した台詞にはいつも胸を打たれっぱなしで、その芯の強さを含め、とても尊敬している。

その時々で特に心に刺さってくる台詞があるけれど、要さんの「人を羨んでしまうことがある」という話に対し、「羨むくらいいいじゃないですか、羨んでいたってその人の幸福を願うことはできます。」と答えるシーンに今回はぐっと来た。羨みを嫉みに繋げない生き方はとても美しいと感じるので、何とか心得たいものだ。

そして、要さんは何とエレファントカシマシのファンである。
一人暮らしの部屋ではDVDでライブ鑑賞をし、ライブ遠征もしている(ライブについては誰のものか記されていないが、話の前後より判断)。
4巻では宮本さんについて沼ちゃんへ語るシーンがあるのだが、「死んでもいいって思えるくらい命を燃やすものを見つけたかった、だからきっとそういうものを持ってる人に触れていたくなるのだ」という思いには完全に同意である。
宮本さんのこういう部分に魅かれる人に対しては、問答無用に仲間意識が芽生える。

大好きな作品に大好きな人が登場するというのは、とても嬉しいことである。
こういう奇跡的な展開が起こるのは、池辺さんと宮本さんの軸(生き方に求めるもの)が同じだからだと思う。
こういう軸に憧れる私は、これからも軸に沿った作品を求め続け、近づいていきたい。

 

私は冒頭で、メディア(偶発的でも意図的でも、広範囲に伝わった作品)が世の中の空気を作っていると書いた。
私にとっての理想的な世の中は「迷惑がかからない限りは、どのような価値観の人も認めあえる空気」が当たり前になることである。
普通という概念が存在しないぐらい、いろいろな既成概念が無くなれば、生きやすい人がどんどん増えるはずだ。

そういう空気を作ってくれる『プリンセスメゾン』のような作品をこれからも愛で続けていきたいと思う。

プリンセスメゾン コミック 全6巻セット

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