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人:いくえみ綾さんという純文学的漫画家

今回は、現在TBS系列で放送中のドラマ『G戦上のあなたと私』の原作者である漫画家・いくえみ綾さんについて。
ここ数年で映像化が顕著な方だけれど、実は今年で漫画家40周年。ずっと第一線で活躍されている漫画家である。

私がいくえみ綾さんの漫画を初めて読んだのは、中学生の頃だ。
前回、小学生女子は皆『りぼん』を読んでいたと書いたけれど、中学時代に何の漫画を読むか(もしくは何も読まなくなるか)は、細分化していたように記憶している。
中学生女子の間で連載中の漫画として読まれていたのは、『週刊少年ジャンプ』などの少年系漫画、『別冊フレンド』や『デザート』などの講談社漫画、『LaLa』や『花とゆめ』などの白泉社漫画、そして『Cookie』や『別冊マーガレット』などの集英社漫画である。

私が当時最も好きだったのは、『別冊マーガレット』である。
贔屓目かもしれないが、『別冊マーガレット』はその当時(おそらくそれ以前も)から現在に至るまで、女子中高生からの人気が最も高い漫画雑誌なのではないだろうか。
中学生の頃は『恋愛カタログ』『先生!』『悪魔で候』、高校では『ラブ☆コン』『高校デビュー』が人気だった。
大学以降も『君に届け』『俺物語!!』『ヒロイン失格』『アオハライド』『町田くんの世界』など次々と人気漫画が生まれ、そのほとんどが映像化されている。

別冊マーガレット』を月刊誌で読み始めた中学生時代、私にとって最も印象に残ったのが、いくえみ先生なのだ。
その頃、いくえみ先生が『別冊マーガレット』で描いていたのは、『私がいてもいなくても』という全3巻の連載漫画、そしていくつかの短編である。
当時の『別冊マーガレット』は個性豊かな作品に溢れていたけれど、その中でもいくえみ先生の描く世界は、とても大人びて見えた。
当時、他の雑誌や媒体などでテーマとして流行っていた援助交際やいじめなどの過激な作品にも大人の世界を感じていたけれど、そういったものとは一線を画す大人の雰囲気だった。

例えば、平成14年12月号に掲載されていた『プレゼント』という短編。
いじめをする側でもされる側でもない、傍観者の女子が主人公の漫画である。
主人公の比較的ニュートラルな心の声、台詞が一切ない中での内情を感じさせる表情、日常会話の中でさらっと出てくる本音、中学生だった主人公が21歳になるまでの成長過程、全ページが今まで読んできた漫画とは違う雰囲気に包まれていた。
当時感じた雰囲気の基になっているものは何なのか。
時を経て改めて考えると、今でも何かの作品を好きになる時に大事な要素となる「人の内面を現実的に描く」という部分が大きいように感じる。
おそらく、私にとって初めて接した純文学が、いくえみ綾さんの『プレゼント』だった。小説としての純文学を知る前に、私は漫画から純文学というものを感覚的に捉えたのだと思う。
ところで、純文学とは何か。
『世界大百科事典 第2版』によると、「大衆文学が読者の慰安を目的とし、興味本位に書かれるのに対して、作者の芸術的感興に基づく純粋な態度で書かれた小説が純文学と呼ばれる」そうだ。
芸術という言葉も、とても意味が広く深いものだと思うが、私は「人が生きることを真摯に捉えて表そうとしたもの=芸術」と考えていることが多い。
つまり私は、自己解釈した意味合いとしての「純文学」が好きであり、いくえみ綾さんの作品によって、私は自分の惹かれる作品(=純文学作品)の方向性が見えたといえる。

同時期に描かれた『あなたにききたい』という短編も、当時の私にとても刺さった作品だ。友情、恋愛、スリラー、何と形容したらいいか迷うけれど、やはりこれも描かれているのは、人である。
繊細な感情の矛盾や揺らぎが描かれていたり、反対にあえて描かないことで解釈を読者に委ねたりするような、全体的にほの暗く静かな作品だ。


現在に至るまで40年間、いくえみ綾さんは様々な雑誌で、漫画を描き続けている。
少女漫画については以前ほど読まなくなってしまったけれど、いくえみ先生の作品は、今までの作品も含め、読み返し続けている。
いくえみ先生の作品は、いつまでも純文学だし、出てくる男性は「いくえみ男子」というジャンルがあるぐらい魅力的だし、老若男女いろんな人が活躍しているし、唯一無二の漫画家だと思っている。
最近の映像化にあやかって、個人的な希望をいうと『かの人や月』を坂元裕二さん脚本でドラマ化したものが見たい。
このお二方の世界観は絶対に合うし、とんでもない名作になるはず。(断言)

今回は初めに影響を受けた作品を紹介させてもらったけれど、どの作品も本当に素晴らしいのでおすすめです。ぜひご一読あれ。