好きなものは、自分で決めるので

私にとっての良いものを表現してくれる作品を愛でるブログ。

本:『流浪の月』(凪良ゆう)

今回は、前評判で気になっていた作家さんの本を読んでみた。
物語としてかなり面白くて読み始めたら止まらない、とても読みやすいのに重厚なメッセージがこれでもかというぐらい胸にささるという素晴らしい本だった。
2020年本屋大賞にノミネートされているのも、大納得である。
今回のノミネート作は、今のところ『流浪の月』と『夏物語』の2冊しか読んでいないけれど、今までの「普通」に対する壁を壊すようなものが世の中で求められていることをひしひしと感じる。
(私がそういう作品を好んで注目しているからそう思うのかもしれないけれど)あらゆるメディアにおいて、最近話題になるような作品のほとんどが、今までの「普通」に対するカウンター的な作品である。
これには、普通の中に生まれるものの素晴らしさは語り尽くされてきたから、という理由もあるかもしれない。
けれどもそれ以上に、SNSなどの発信によって、いわゆる普通から外れていると思われてきた人の声が顕在化している影響が一番大きいのではないだろうか。
誰かの勇気が、同じような環境にいる誰かの安心や共感の声を産む。その新しくできた輪を好奇心や物珍しさで外側から見ていた人も、だんだんとその状況に慣れていく。
さらに、社会が多様性を推奨しているという追い風まで吹いている。
自分の意思で、自分が心地よいと思えるような生き方で生きていくことを良しとする世の中にどんどん近づいていると感じる今日この頃である。
そして今回紹介する『流浪の月』のような良質な作品が、そういう生き方をどんどん広げていってくれることが痛快である。
この本はネタバレ無しで読んだ方が面白い本だと思うので、この作品で特に気に入った点を抽象的に2つだけ書かせて頂きたい。

1.様々な立場の人を書くことで、中立的な作品になっている

この本は、主人公の女性[更紗]と男性[文]をとりまく様々な人との関わりが丁寧に書かれている。
「事実と真実は違う」ということが、この本における大きなテーマになっているが、更紗と文はこの違いを理解されないことで、大いに傷ついていく。
しかし彼女らは、傷つきながらも、理解されないという事実に理解を示そうとする。
それでも、理解されていないうえでの優しさを受け止められず、また傷ついていく。
『流浪の月』では完全なる悪人がほぼ出てこない。
弱い面・優しい面・ずるい面など一人の人間が持ち合わせている様々な面が、時と場合によって表出される。
人の多面的な部分を良くも悪くも理解してしまう主人公たちの視点で読むからこそ、その視点ゆえの苦痛と苦悩を味わいながら、その関わる相手の心情も慮ることができる。

2.人の繊細な面が真正直に書かれている

上記のとおり、『流浪の月』では、一人の人間の様々な面のうち、弱さについてもしっかりと書かれている。
特に、主人公の更紗と文については、「あの時こうしてれば良かったのに」と外から言うことは簡単で、本人もどうすればいいかを分かっていて、それでもどうしてもできないというような状態に陥っている。
こういう状態は、大なり小なり多くの人が経験していると思うけれど、どんな人にとっても本当に苦しい状態であると思う。
この苦しさを扱った作品として『ダンス』について以前書いたけれど、同じようにこの部分を丁寧に書いた作品として、記憶の大事な部分に残しておきたいと思った。

また、(特に終盤の)悩みについて考えすぎた結果の行動や言動の書き方については、驚愕した。
これは私にとっては覚えのある思考・行動回路であり、今まで『女子をこじらせて』(雨宮まみさん)で同じように驚愕した覚えがあるけれど、小説内にてこのような形で提示されることは、ありそうで実はあまりないような気がする。考えすぎるということについて、考えることができる作品だと思った。 

 

今回は以上となります。
凪良さんの他の作品も読んでみたい。ので読んでいこうと思います。

流浪の月

流浪の月

  • 作者:凪良 ゆう
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: 単行本